親子の間に “風を通す” 学びのヒント 第1回「安心」がないと子どもは学べない——家庭教師の現場から見えたこと

こんにちは、オーダーメイド学習塾はつがの千田です。親子の間に “風を通す” 学びのヒント、今回は「安心」がないと子どもは学べない——家庭教師の現場から見えたことをお伝えします。

◇安心できる場所が、学びを動かし始める

「たとえば、勉強机の前に座っても、何度声をかけても鉛筆が動かない──そんな様子を見たことはありませんか?」

子どもが目の前のことに集中できるかは、能力よりも「いま、この場で心が開放されているか」による──私は家庭教師として日々そう痛感します。大人がいくら「勉強しよう」と声を掛けても、子どもにその気がなければ無駄なやり取りです。大人が言わなくても、こどもはいつまでに何をすべきかわかっています。子どもが「この人の隣なら、たとえつまずいても受け止めてくれる」と感じられれば、前に向いて進んでいきます。では、“安心できる場所” はどうやってつくれるのでしょうか。

◇不登校気味の男の子が変わった瞬間(実例 ❶)

中2の男子生徒は自分の部屋にこもりがちで、登校は週に1度だけ。初対面のとき彼は、机に向かう私の横顔をちらっと見ては目を伏せていました。私はまず教科書を閉じ、「今いちばん好きな ゲームは?」と問いかけ、数分ほど“授業をしない時間”をつくりました。私も彼と同じゲームをしていて、結構なレベルでしたので、それを彼に伝えると、彼は目をクリクリしながら驚いていました。

彼は、野球少年でもあります。話題がゲームから野球に移った頃、彼の眉間のしわがほどけ、イスに深く座り直したのです。彼は「最近、野球は面白くない」と話しますが、自宅でいつもやっているというバッティングを見ていると、5球に1球は球筋の綺麗な打球がまっすぐに飛んでいきますが、それが2球、3球と続かないのです。2球目は打ちたい気持ちが強すぎてからだが前に突っ込んでしまい、3球目はボールから目線をそらしていました。私は彼に「集中が足りない。集中して」と声をかけると、頷きながらバッティングに集中し、3球連続で良い打球を打つ事が出来ました。バッティングを終えた後、彼に対して「集中力を身に付けたいのであれば、文章をしっかり見ること」と伝え、彼は「次週からきちんと勉強する。文章題をやりたい」と話してくれました。次の週、彼は自分から数学の質問をメモ帳に書き留めていました。「聞いても怒られない」と感じたからです。安心が芽えた途端、学びは自走を始める──その瞬間を私は何度も見てきました。

◇嫉妬が気になる女子中学生のケース(実例 ❷)

ミホさん(中3)は、指導を始めようとした瞬間、私に何かを話そうとします。「学校がつまらない。男子生徒がむかつく」と文句を言い始めます。その影響でストレスを貯め、自室ではいつもスマートフォンを見ていました。もう、勉強どころではありません。

ヒアリングを進めると、他人の話が続きました。そのため、私は「もっと自分のことを考えなさい。他人は変えられない」と話します。クラスでも様々な係を積極的にやってきた彼女ですが、本当は「私はそんなにできる人ではない」とこぼすのです。自分はそんなにできないのに、周りからはできる人に見られている。態度も目立ちがちで、見えない嫉妬心を受けることもありました。

だからこそ、彼女には「自分を大切にすること」を伝えました。そして「自分の軸を作ること」を提案し、彼女からはうそや偽りなく、自分をさらけ出してもらいました。「私、本当は目立ちたくない。でも、無視されるのも怖い」——そんな言葉を、涙ぐみながら打ち明けてくれました。もちろん、こんなことはいきなりできることではありません。ここに至るまで、彼女から様々な悩みを聞いてきました。しっかり気持ちを受け取りながらも、次に向けての道標を示します。

彼女には安心させながら、次に向けての方向を示したことで彼女も納得して、自分づくりにチャレンジしてくれました。これからも様々な壁を迎えると思いますが、つまずいた時はいつでも自分の場所(自分の軸)に戻って、見つめ直してほしい。私はそう願っています。

◇なぜ安心があると学びは進むのか

行動科学では「心理的安全性」が創造性や集中力を高めると示されています。

子どもに置き換えると──

•自己肯定感が上がる:失敗しても価値を否定されない場では、挑戦が増える。

•前頭前野が機能しやすい:不安が低いと、論理的思考を司る脳部位が働きやすい。

•外発的動機から内発的動機へ:強制されず、自分のペースで取り組むうちに「もっと知りたい」という欲求が芽生える。

数字で測りにくい要素ですが、現場では手応えがはっきりしています。タクミ君のように「質問を用意してくる」、ミホさんのように「ノートを自分から開く」──これらは安心という土台がもたらす行動変容です。

◇はつがのアプローチ──三者で支える“考える学び”

1.コーチング型指導

•解き方を教える前に、必ず「なぜそう考えた?」と問いを返す。

•生徒自身の言葉を引き出し、思考の筋道を一緒に整理する。

2.三者目標の共有

•生徒・保護者・指導者で「今月の小目標」をホワイトボードに書き、LINEで共有。

•目標は点数よりプロセス(例:自学ノートを週3回提出)に置く。

3.是々非々の声かけ

•良い行動は即時に具体的に褒める。

•約束を守れなかったときは理由を聴き、次の一手を一緒に決める。

•「ダメ」ではなく「どうすれば次はできる?」と、改善に焦点を当てる。

◇今日からできるワンポイント

「その発想、面白いね。あとで詳しく教えて」と言った後、次の週にその話を聞いてメモを取り始めた子もいます。まず興味を示し、評価や指導は後に。子どもは「聞いてもらえた」だけで心のハードルを一段下げます。

◇次回予告

次回は 「やる気がない?」の裏に潜む “小さな SOS” をどう見抜くか をお届けします。家庭で今すぐ試せる観察ポイントを具体例とともに解説します。どうぞお楽しみに!